信徳寺
カレンダーのことば 2022年8月
「正義」はいつも 戦争の武器となる
戦争を起こすのに多数の人々を巻き込むべく大義を掲げ、そのことに自らの正義を交えつつ、自らの行為を正当化していく。これが古来から行われてきた戦争のあり方、そしてプロパガンダと呼ばれる為政者による宣伝ではないでしょうか。戦い、そして勝利に値する正義を探り、戦意を高揚させていくのですが、これはあくまでも自らの正義であって、他者の正義ではないので、ここで激しいぶつかり合いが起こります。
こどもたちに人気のアンパンマンの作者であるやなせたかしさん(1918―2013)は、『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)の中で、このようなことを述べておられます。戦前戦後のイデオロギーの変化の中で、軍国主義から民主主義へとガラッと変わりゆく状況の中で「正義」が全く違うものになっていく経験をされました。そうなると「正義」というものを信じがたくなる、そのことを骨身に徹して知り戦後のやなせたかしさん自身の考え方の基本となったとおっしゃられます。そこで、「逆転しない正義とは献身と愛だ。それも決して大げさなことではなく、眼の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えること。」とお腹を空かせた皆に自分の顔であるパンを与えるアンパンマンの原点になる思いを持たれるようになりました。
この献身と愛ということはとても大切なことです。現在も戦争が止まることのないウクライナの現状に対して、何か私たちにできることは、巻き込まれた市民に手を差し伸べることかもしれません。根本的な解決に対しては無力感を覚えますが、対処療法的に今苦しんでいる人々に対して何かできはしないか。そこに逆転しない正義があるのだとやなせたかしさんに教えていただきました。
そしてもう一つ、今までの自分の人生においてこの献身と愛を身にうけたことがあったのではないでしょうか。親や親族や友人や私に関わった人々から、そのようなお心を受けたということがとてもありがたく思います。今月はお盆を迎えます。もしそのお方が故人であるならば、ともどもにそのことをことばにしつつ共有しながら、思い出話をしていく。形にすることでその人が鮮やかになっていきます。そういった思いを醸成していく中に、どこまで行っても自己中心のものの見方しかできない私たちですが、お互いを尊重できる思いを持っていけると思うのです。

