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  • 執筆者の写真信徳寺

2021年7月の掲示板

今ある人生 それがすべてですな 

(竹井千代「おちょやん」より)


 これは先日まで放送されていたNHKの連続テレビ小説「おちょやん」の主人公、竹井千代さんのセリフです。竹井千代さんの波乱万丈の生涯の中で、人生におけるさまざまな選択肢に別の道を選んでいたらどうなっていたかの質問に対しての答えとしておっしゃられたセリフです。いいことも悪いこともたくさんあったけれども、「こんなはずじゃなかった」「ああすれば良かった」そんな思いもたくさん湧くけれど、今ここにある人生こそすべてであり、尊いものなんだと伺えるセリフでした。

 私たちの苦しみの原因の一つはギャップです。何がギャップを生むのかと言いますと、例えば「理想と現実」です。色々と思い描く中に理想を作ります。その理想と今ある現実のギャップが「こんなはずじゃなかった」とか「別の道があったはずだ」とか苦しみを生みます。

 そしてもう一つギャップを生むのが「現実と事実」です。一見すると同じ意味に思える言葉ですが、「現実」は私というフィルターを通して経験した事実であり、「事実」はただ起こったというありのままの事実です。以前こんなことがありました。使用していた音楽を鳴らすコンポが壊れて、処分するという話になりました。家のものからしたら古い使えなくなったコンポを処分するという「事実」なのですが、私からすると若い時にアルバイト代を貯めて購入した古い使えなくなったコンポを処分するという「現実」となります。これが現実と事実の違いになります。このように「理想と現実と事実」の間で私たちはさまざまにギャップを感じ、苦しみを生み出しています。

 仏教ではこのギャップに対して二つの方法でアプローチします。一つは徹底的に「事実」に生きるということです。正見、すなわち正しい見方、物事に偏りのない見方をしましょうということです。私が持つ自己中心性を徹底的に滅していく、そのことで偏りのない正見、「事実」に生きることができるのです。

 もう一つは、この見方ができない私に気づき、そのままの自分を受け止めてもらうあり方です。事実に生きようとしても「情」があるために生きることができないものに対して、「わかってるよ、大丈夫だよ」とお慈悲のお心で受け止めてくださる存在にまかせていくということです。この私を支えてくださる存在に気づいていく、出遇っていく中に、このいのちを尊いものと受け止めていく。その存在を仏様にみていくあり方です。

 「今ある人生 それがすべてですな」ということばには、今起こっていることはたくさんの原因の結果であり、それ以上もそれ以下でもない単なる事実として受け止めるという事実に生きるあり方も伺えますし、今ここにこの私を支えてくれる存在がいる、そんな繋がりを感じる中に、どんな人生どんないのちであろうとも尊いものであると受け止めていく、そのようなお心も伺えます。どちらにせよ、今ここに全てを見ることの大切さに触れることのできたドラマのセリフでした。







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