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  • 執筆者の写真信徳寺

2021年9月の掲示板

「ゆっくり」もええもの 『料理と利他』土井善晴・中島岳志


 このことばは『料理と利他』という本にあったことばです。この本は料理研究家の土井善晴さんと東京工業大学教授の中島岳志さんのコロナ禍に行われた対談を書籍にしたものになります。この対談の中で印象に残った話がございます。それは土井善晴さんが家庭料理を大切にされるに至った話です。土井善晴さんのお父さんは家庭料理研究家の土井勝さんです。そのお父さんから家庭料理の道を進むようにと言われたそうですが、料理人たるものは格調高い料亭とか繊細な芸術的な世界と思っていたので、そのことを素直に受け止められず、究極の料理人を目指す日々だったそうです。その中で、土井善晴さんは「民藝」という思想に出遇います。名もなき民芸品に尊さを覚えるあり方です。民芸品とは名もなき製作物が誰かのためにという方向性でしか存在しないものなのです。そのことに尊さを覚え、自ら課せられた家庭料理という存在に、これは誰かのためにというとてつもなく尊いものなんだと気づかされたそうです。そこからお父さんの家庭料理研究家としてその思いを受け継ぎ、現在に至るとおっしゃっておられました。

 またこういったこともおっしゃっておられます。料理は時間との勝負になることが多く、速さが求められる世界だそうです。それがコロナ禍で時間ができ、「ゆっくり」することが多くなった。その中で周りのものに気づき、豊かな広がりがあった。「ゆっくり」もええものですねと。

 この二つのことは目線を変えていくということです。家庭料理が技術的に劣ったものではなく、どんなものであろうと誰かのために作られるという尊さを持ったものであること、そして速さが求められる中に「ゆっくり」という時間が世界の広がりを生むということを教えてくださいました。

 仏教では「執着」を離れることが大切だと言います。掴んで離さないその心が苦しみを生む。目線もそうかもしれません。こうあるべきだという思いが苦しみを生む場面が少なからず私たちの生活には存在します。そういった中に、違う目線のことばに出遇うとほっとしませんか。そんな少し肩の荷をおろせるような今月のことばでした。



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